「のんびりやっていけばいい」が思わぬ事態に。
数次相続とは?
相続手続き中に相続人が亡くなった場合の手続きと対処法を解説

「不動産の名義変更って3年以内にやればいいんでしょ?さすがにそれまでには終わるし、のんびりやっていくわ……」

こんな声をよく耳にします。確かに相続登記の義務化(3年以内)を踏まえると、相続税申告ほどの緊急性は感じにくいかもしれません。しかし、手続きを放置すると期限とは別の深刻なリスクが生じます。その一つが「数次相続」です。相続手続き中にさらに相続人が亡くなることで、手続きが一気に複雑化し、面識のない親族が協議に加わる事態にもなりかねません。本記事でその仕組みと対処法を解説します。

1. 数次相続とは何か:定義と発生の仕組み

相続の手続きは、状況によっては数ヶ月から数年に及ぶことがあります。その途中で相続人の一人が亡くなるケースは、決して珍しくありません。

数次相続(すうじそうぞく)とは

最初の相続(一次相続)の手続きが終わる前に、相続人が死亡して次の相続(二次相続)が発生することをいいます。数次相続が発生すると、遺産分割協議に参加すべき人物が変わり、手続きが複雑化します。

⚠️ なぜ放置が危険なのか:遺産分割協議が未了のまま時間が経過すると、相続人が亡くなるたびに協議参加者が増え続けます。最終的には面識のない親族が多数参加する困難な状況になり、手続きに何年もかかるケースもあります。

2. 誰が相続人になるのか:2つのケースで解説

数次相続では、亡くなった相続人の権利を、さらにその相続人が引き継ぎます。代表的な2つのパターンで見ていきましょう。

ケース1:父の死後に「母」が亡くなった場合

父が亡くなり遺産分割協議中に、相続人である母が亡くなった場合。母が持っていた「父の遺産を相続する権利(1/2)」を、子(二次相続人)が引き継ぎます。子が2人以上いる場合、「自分の相続分」と「母から引き継いだ相続分」の両方を合わせて協議を行います。

数次相続 ケース1の図 数次相続 ケース1の図
ケース2:父の死後に「子」が亡くなった場合

父の死後、子の一人が亡くなった場合。亡くなった子の配偶者(妻)やその子供が、子の代わりに父の遺産分割協議に参加します。普段交流のない親族が協議に加わることになり、話し合いが難航するリスクが高まります。

数次相続 ケース1の図 数次相続 ケース1の図2
💡 ポイント:数次相続では、協議に参加する相続人が「減る」のではなく「増える」ことが多いのが特徴です。特にケース2では、亡くなった子の配偶者という「元々の相続人でない人」が新たに協議の当事者となります。

3. 同時死亡の場合はどうなるか

事故などで同時に複数人が亡くなった場合、あるいはどちらが先に亡くなったか不明な場合は、法律上「同時に死亡したもの」と推定されます(同時存在の原則)。この場合、お互いに相続権が発生しないため、数次相続は発生しません。

📌 夫婦が同時に亡くなった場合の相続順位:
  • 子がいれば → 子が最優先で相続
  • 子がいなければ → 被相続人の父母に相続権が移る
  • 子も父母もいなければ → 兄弟姉妹に相続権が移る

4. 相続持分はどう変わるか:具体的な計算例

数次相続が発生すると、それぞれの相続人の持分がどう変化するかを把握することが、遺産分割協議の出発点になります。

ケース1:父の死後に母が亡くなった場合

母が持っていた「父の遺産に対する1/2の権利」を子が引き継ぐため、最終的には子がすべての持分を持ちます。

ケース2:父の死後に子が亡くなった場合

子が持っていた「父の遺産に対する1/2の権利」を子の妻が引き継ぐため、母と妻にそれぞれ持分が生じます。

📌 注意:ケース2では父の遺産に対して「母 1/6、子の妻 2/6」という複雑な持分になります。遺産分割協議ではこの持分を基礎として話し合いを進めることになります。

5. 二次相続だけ相続放棄できるのか

数次相続が発生した場合、「一次相続だけ放棄したい」「二次相続だけ放棄したい」という疑問が生じます。結論は以下の通りです。

💡 結論:二次相続だけを相続放棄することは可能です。ただし、二次相続には「一次相続分で受け継いだ財産」が含まれるため、一次相続分だけ相続・放棄するという選択はできません。
一次相続
(故人の財産)
一次相続持分 二次相続
(故人の財産)
相続放棄の可否
相続 相続 相続 できる
放棄 できない
相続 放棄 相続 できない
放棄 できる
放棄 相続 相続 できる
放棄 できない
放棄 相続権なし
※二次相続の故人が
一次相続を放棄している場合
相続 できる
放棄 できる
⚠️ 相続放棄の期限:相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」が原則です。数次相続では各相続の起算点が異なるため、期限管理に特に注意が必要です。

6. 実際のトラブル事例:実家の権利が義理の娘へ

📁 トラブル事例|父の死後、長男も急逝。「数次相続」で実家の権利が義理の娘へ……

父が他界し、母と長年住んできた実家の相続手続きを始めようとした矢先、追い打ちをかけるように長男が急死してしまいました。長男の妻は、長男が持っていた「父の遺産を相続する権利」をそのまま引き継ぎましたが、母と他の兄弟は「実家の名義は母にしたいので、共有を辞退してほしい」と申し出ました。しかし妻側から「法定相続分に見合う600万円を支払ってほしい」と代償金の請求を受けたのです。

最終的には支払いが難しく、やむを得ず実家を妻との共有名義にしましたが、将来、妻に相続が発生した際に実家の権利がさらに面識のない親族へ分散してしまうのではないかと、不安が募っています。

🔵 発生後の対処法

将来的に資金が準備できた段階で、義理の娘から共有持分の買取交渉(代償分割の再試行)を行うのが最も現実的な解決策。話し合いがまとまらない場合は「共有物分割訴訟」も選択肢ですが、競売リスクがあるため慎重な判断が必要です。

🟢 事前にすべきだった予防策

父の死後、速やかに遺産分割協議を完了・相続登記を行っていれば数次相続による複雑化を防げました。また、父または長男が生前に「実家は母に相続させる」旨の遺言書を作成していれば、義理の娘への流出を防げた可能性があります。

まとめ:数次相続で押さえるべきポイント

  • 数次相続とは、一次相続の手続き中に相続人が亡くなり二次相続が発生すること。放置するほどリスクが高まる
  • 相続人が増え、面識のない親族(義理の娘など)が協議に加わる事態になりうる
  • 同時死亡の場合はお互いに相続権が生じないため、数次相続は発生しない
  • 二次相続だけの相続放棄は可能だが、一次相続分だけを選んで相続・放棄することはできない
  • 相続放棄の期限は各相続を知ったときから3ヶ月以内。数次相続では起算点の管理が重要
  • 最大の予防策は「速やかな遺産分割協議の完了」と「生前の遺言書作成」
この記事の執筆者
富岡淳 司法書士・行政書士

司法書士・行政書士

富岡 淳

早稲田大学法学部卒業後、都内の司法書士事務所、弁護士法人及び司法書士法人にて研鑽を積み、独立。個人事務所を経て、司法書士法人・行政書士法人ビスポークを設立。

相続、遺言、家族信託、債務整理を始めとする暮らしに寄り添う法務サポートから、不動産登記、商業登記まで幅広く対応。

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